染物の歴史

何故、人は繊維を染めるのか?

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 私たちが身に着ける服を作る繊維は、植物の繊維、動物の毛、昆虫の糸などが原料です。
そのまま布や紐にしても使えないことはありませんが、大抵は色がついていないままです。
すると、出来上がる服は皆同じような色で、形が違っても大して変わらないということになります。

しかし、糸や繊維を染めることで、カラフルになるばかりでなく、元々の繊維だけでは実現できなかった様々なメリットが生まれます。

染めるメリット1:文化を生む

色や模様のついた服は、人をおしゃれにして文化を生み出す原動力となります。
服の色や模様は、社会的な役割・職業を示す指標や、自己表現のための装飾になります。
染めて色を付ける技術が無ければ、社会は随分と貧しく地味な物になっていたでしょう。

染めるメリット2:繊維が丈夫になる

繊維に化学物質が結合することにより、より耐久力が強化されます。
例えば、柿渋染めに使われる「渋(タンニン)」は、植物が害虫や病気から身を守るために作る物質なので、これで染めた繊維は虫に食われたり、腐ったりしにくくなります。

染めるメリット3:様々な機能が付く

染色をすることで、繊維は丈夫になるばかりでなく、いろいろな機能が付加されるようになります。
柿渋の場合、殺菌(防腐)や防虫効果に加え、防水の効果があるので、網などは水を吸って腐ることなくより長持ちし、和傘の紙も水を破れにくく水を弾くようになります。
このほか、ジーンズなどで見られる藍染めには消臭効果もあります。

染めの技術の進化

最初の頃は、出来上がった布に草や木、動物の血を絵の具のようにして図や模様を描いて染めていたものと考えられています。
後に、より落ちにくく、褪せにくいを求め、鉱物からとれた顔料も使われるようになりました。

やがて、染めるための液に布や繊維を浸す方法が考案され、染物の基本的なスタイルが完成しました。
この方法は、布にする前の糸の段階で染める「先染め」と、布として織り上げてから染める「後染め」に分けられています。

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先染めをする場合、違う色に染めた糸を何種類も用意すれば、きれいな模様や図柄の入った布を織り上げることが出来ます。
錦(にしき)、絣(かすり)、西陣織などは、いずれも先染めの織物の種類です。

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後染めは、先染めに比べると色のバリエーションでは劣るものの、筆を使ったり、型紙を使ったりすることで複雑な模様も作れます。
大量生産に向いている他、後で染め直すことが出来るのもメリットです。
更紗(さらさ)、京友禅は後染めで作られます。

近代の主役、化学染料

古くから染物の主役は植物からとった成分でしたが、近代になると石油や他の成分から化学的に合成された化学染料が生まれました。
化学染料は性質が安定しているので、劣化や色落ちに強く、大量生産も容易です。

化学染料が登場したことで、コストが高く、色落ちにも弱い天然染料は染めの主役ではなくなりました。
現代では繊維の色を付けるのは殆どが化学染料です。

しかし、天然染料でしか出せない色や感触もあるので、まだまだ大切に使用されています。
日本の伝統的な染織も、重要な無形文化財として保護されている所がたくさんあります。
規模こそ小さくなりましたが、化学染料と共に天然の染も長く使われていくことでしょう。

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