偏光を使うと何が分かるのか?

見えているけれど見えない世界

 光の波長

光はいわゆる「電磁波」で、名前の通り波のように振動して伝わる性質を持っています。

見える光(可視光線)も、赤外線、紫外線、マイクロ波、X線などと同じ電磁波で、波の長さ(波長)が異なることで種類が変化します。

可視光線は波長が380~750ナノメートル、人間の視覚は波長が長い物を赤色、中くらいの物を緑、短い物を青として認識しています。
それ以外の色は、3色のミックスで認識する仕組みです。

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これに対し、爬虫類や鳥類では赤緑青に加えて「紫」の四色を認識でき、人間以外の哺乳類は赤と青しか見ることができない物が多数派です。
赤よりも波長が長い赤外線や、紫より短い紫外線も、人間は見えませんが、、チョウやハチ、ハチドリの仲間は紫外線を見ることが出来ます。

このように、動物によって見えている光が異なるため、見えている景色も大きく異なります。
しかも、違いを作り出すのは光の波長(色)だけではありません。
ある種の動物では、光の波が「振動する向き」も知ることができるのです。

偏光とは?

光の波の向き

光は「波」なので、進む方向に対して垂直に振動しています。
しかし、必ずしも縦に振動しているわけではなく、横や斜め、円を描くように振動するなど、向きはバラバラです。

私たちが普段見ている光(自然光)は、いろいろな向きに振動している光がごちゃ混ぜになっている物です。

これに対し、振動が特定の方向だけに揃えられた光は「偏光」と呼ばれています。
振動の向きがまっすぐなら「直線偏光」、渦をかくように振動していれば「円偏光」、前から見て楕円を描くように振動していれば「楕円偏光」です。

偏光を利用する生き物たち

偏光の向き

光が物を通り抜けて屈折したり、反射したりするときは、光の向きがねじれたり、ある偏光だけが通り抜けたりすることによって、特定の偏光の割合が多くなる現象が起こります。

そのため、光が雲や水の中で何度も屈折・反射すると、偏光の割合が変化します。
反射した光と、太陽から直接届く光では、含まれる偏光の中身が異なっているということです。

一部の生き物ではこれを利用し、偏光の種類から方角を判断する能力を持っています。
光の振動の向きを感知できる能力は「偏光受容」と呼ばれています。

昆虫の偏光受容

偏光受容

大きな複眼を持つ虫の目の中では、それぞれの目で特定の偏光に反応する細胞が規則正しく並んでいます。
光を見ると、見た光がどのような向きに振動しているのかが分かるのです。

もし、自分が見ている光の中の偏光の割合が判別できれば、直接太陽から届く光が来る方向、つまりは太陽の位置が判別できます。
これにより、曇り空や水の中でも太陽の位置を正しく判別し、方角を間違うことなく移動することが可能になるのです。

アシナガバチ

ハチの仲間は曇っていても太陽の位置から方角を判別して、迷うことなくエサ場と巣を行き来することが出来ます。
カゲロウの仲間は繁殖期になると、産卵場所である水面に反射した偏光を感知して、パートナーと出会うために水場を目指して集まってきます。

昆虫にとって、偏光を知ることは色が分かるのと同じぐらいに重要なことなのです。
ハチと同じ理由で、長距離を移動する渡り鳥の一部も偏光受容を持つことが知られています。

他の動物の偏光受容

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光が反射したり屈折したりしやすい水中で生活している動物も、偏光受容が発達しています。
具体的には、魚、両生類、カニやエビなどの甲殻類、タコやイカといった頭足類、ウミウシやナメクジのような腹足類が偏光を感知できます。
水中の生物は、だいたは光が振動する向きが分かるということです。

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シャコの仲間は、円偏光(回転するように振動する偏光)の回転の向きさえも判別できることが知られています。

人間の場合は?

人間を含む哺乳類は基本的に偏光の向きを感知する力は持っていません。
分かるとしても極稀で、しかも役に立つレベルではありません。

人間は光の向きが分からなくても、広い範囲を見渡して太陽の向きを探ったり、地形などを見たりして方向を知ることができます。
人間が生きるのには、偏光の向きを知ることはあまり意味がないということです。

しかし、人間は他の動物とは全く異なる分野での偏光の使い道を見出し、産業の発展に役立てています。

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