放射線観察装置:霧箱とは?

放射線を見る装置

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放射線は当然ながら目で見ることはできません。
しかし「霧箱」と呼ばれる簡単な装置を使えば、、放射線が通過した「痕」を目にすることが出来ます。
霧箱を使い、普段は目にすることができない放射線の痕跡を確かめてみましょう。

霧箱とは何か?

この装置は1897年に、スコットランドの物理学者チャールズ・ウィルソンによって発明されました。
この装置の発明により、ウィルソンは1927年にノーベル物理学賞を受賞しています。
放射線その物を見るのではなく、その通った空間に霧を生じさせることで、通過した軌跡を見れるようにする装置です。

そおもそも霧とは何?

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霧は空気の中に含まれる蒸気が液体に戻り、非常に小さな雫になって浮いている状態です。

空気は温度によって含んでおける蒸気が変化します。
温度が高ければ多くの水蒸気を含むことが出来、温度が下がると減って、含んでおけなくなった分の蒸気は液体に戻ります。
(気体が液体になるこの現象は「凝縮」と呼ばれます)

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冷たい飲み物が入ったグラスの表面にが濡れるのは、グラス表面で空気が冷やされて、空気中の水蒸気が水に戻ることが理由です。
霧も同じで、暖かい日からいきなり気温が下がると、湿った空気に含まれていた水蒸気が液体に戻って、微小な水滴になって浮遊するようになった現象です。

霧箱の原理

過飽和

温度が下がると空気に含まれていた蒸気が液体に戻るとはいえ、実際に雫になるには空気中の微小な埃やチリ、ガラスの表面の凸凹といった、「核」となる物が必要です。
核になる物が無いと、いくら冷やされても蒸気は液体に戻ることが出来ず、気体の中に散らばった蒸気のままです。

空気の温度が下がって蒸気を含んでおける量が低下しているのに、核になる物が無いために液体に戻れずにいる状態は「過飽和」と呼ばれています。

過飽和 2

ここに放射線が通ると、放射線の高いエネルギーによって、通った場所の空気や蒸気を構成する原子がイオン化します。

過飽和 3

すると、そのイオン化した原子が核となり、蒸気が集まって雫となって霧を作ります。
放射線が通ったところだけに霧が生じるので、放射線の軌道が目に見えるようになるというわけです。

DESYNebelkammer

霧箱の構造

装置構造

霧箱の構造を一言でいえば「中の空気を冷やして過飽和の状態を作った箱」となります。
中を過飽和の状態にしておけば、放射線が通ると霧の筋が出来るという具合です。

ウィルソンが最初に作った物は「膨張霧箱」と呼ばれるタイプで、中の気圧を下げてやることで温度を低下させる仕組みです。
箱についているピストンを引っ張ると気圧が下がって温度も低下し、過飽和の状態が出来上がります。

欠点としては、温度が低下するのはピストンを引いて気圧が下がったときだけで、一度使うと再使用可能になるまでに5分ほどのタイムラグが生じます。
放射線を感知すると自動で気圧を下げる機構も作れますが、作るには手間がかかります。

もっと簡単な方法は「拡散霧箱」と呼ばれるタイプです。
蒸気を作るための液体(水やアルコール)を箱の中に入れて、下からドライアイスや液体窒素で冷やしてやることで過飽和の状態を作ります。
アルコールは常温で勝手に蒸発していくので都合が良く、よく使われています。

拡散霧箱ならピストンなどのややこしい部品は要らず、ドライアイスがあれば出来るので、比較的簡単に作ることが出来ます。

余談:霧箱のアップグレード「泡箱」

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泡箱は1952年にアメリカの物理学者ドナルド・グレーザーによって発明された放射線観測装置です。
基本的な考え方は霧箱と同じですが、泡箱では液体水素を使います。

泡箱では霧箱と反対に、液体の水素が気体に戻る温度よりも少しだけ加熱した状態(マイナス252℃より上)にしておきます。
しかし、過飽和と同じように核になる物が無いと泡が生じません。

放射線が通った場所の水素がイオンになると、それが核の役割を果たして泡が生じ、放射線が通った軌道が泡として見えるという理屈です。
液体は気体の約1000倍の密度があるので、よりはっきりと放射線が通った後が見えるようになります。

ただ、液体水素などは簡単に手に入る物ではありませんs、超低温なので取り扱いには高度な技術を要します。
何より、水素は少々の火花で大爆発を起こす危険があるので、素人で泡箱を作るのはまず無理です。

普通の放射線なら霧箱で観察できるので、そちらで我慢しておきましょう。

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