望遠鏡の基本型:屈折望遠鏡
望遠鏡といえば屈折望遠鏡
望遠鏡にはいくつものタイプがありますが、多くの人が「望遠鏡」というキーワードで連想するのが、海賊が持っているような筒型の物です。
これは「屈折型望遠鏡」と呼ばれるタイプで、筒の前方に対物レンズ、目の側に接眼レンズという二つのレンズを取り付けた構造をしています。
屈折型望遠鏡は初めて作られた望遠鏡の種類で、17世紀ごろにオランダの眼鏡屋(あるいはレンズ職人)ハンス・リッペルスハイが、二つのレンズを使うと遠くの物を拡大して見れることを偶然発見したことで生まれたとされています。
この当時、ヨーロッパ各国は世界中で植民地化を進めるとともに激しい覇権争いを繰り広げていました。
遠くのものを見ることが出来る望遠鏡は、軍事・航海において革新的な発明であり、オランダ政府は自国の優位を保つために製造や輸出を厳しく制限しました。
元祖望遠鏡「ガリレオ式」
ガリレオ式はリッペルスハイが開発したタイプの望遠鏡で、オランダ式とも呼ばれています。
望遠鏡の情報はオランダ国外に漏れないように厳しく制限されていたものの、ヴェネツィアの科学者ガリレオ・ガリレイは、「二つのレンズを使う」という情報だけを頼りにして、望遠鏡を再現して見せることに成功しました。
この望遠鏡は、対物レンズに凸レンズ、接眼レンズに凹レンズを使っています。
虫眼鏡で遠くを見ると像が逆さに見えますが、ガリレオ式では凹レンズで向きを修正することで、上下が正しい形で見えるようにしています。
ただし、倍率をあげると視野が非常に狭くなるという弱点があります。
ガリレオ式の視野は倍率の二乗に反比例し、倍率を2倍、3倍にすると、1/4、1/9と著しく狭くなります。
仮に倍率を100倍にすると、視野は1万分の1になり、狭いどころではない状態になってしまいます。
上下逆さだけれど明るく見える「ケプラー式」
ガリレオ式は色収差(色のにじみ)が少ない優れた望遠鏡でしたが、視野がかなり狭くて暗いという欠点がありました。
ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーは、1611年に接眼レンズにも凸レンズを使った、新型の望遠鏡を発表しました。
ただし、ケプラーは構想を発表したものの自分で作ることは無く、同じドイツの天文学者クリストフ・シャイナーが実際の制作を行いました。
この望遠鏡では、見える像が逆さになりますが、倍率をあげてもガリレオ式ほど視野が狭くならないという利点があります。
ケプラー式の視野の広さは倍率に反比例するので、倍率を2倍、3倍にしても、ケプラー式では1/2、1/3で済みます。
天体望遠鏡はケプラー式が好都合
ケプラー式は視野が広くて明るく見れますが、航海や監視のように地上・水上の物を見る際に逆さに見えるのは不便なので、ガリレオ式が依然として使われ続けました。
(海賊が使っているのはガリレオ式です)
しかし天体観測では、暗い夜空でかすかに見える星を倍率をあげて見なくてはならならないので、倍率は数十倍~150倍と、かなり高く設定されています。
これほど倍率を高くすると、ガリレオ式では視野は何万分の1になりますが、ケプラー式なら数十~150分の1で済むので、それだけ広い視野が確保できます。
また、星を見る分には逆さになっても問題は生じません。
こうした理由から、1672年にもっと高倍率で明るく見れる反射式天体望遠鏡が登場するまでは、天体望遠鏡といえばケプラー式でした。
現代の望遠鏡
昔の望遠鏡は見え方が暗かったり逆さだったりしましたが、現代の双眼鏡やフィールドスコープはとてもはっきりと明るく見えますし、逆さになってもいません。
これはケプラー式の中に「プリズム」を入れて、像の左右・上下の反対を直しているからです。
プリズムはガラスや水晶などを角柱のようなブロック型に切った物で、中に入った光を反射、屈折させることが出来ます。
大型の望遠鏡に使われているのは「ポロプリズム式」というタイプです。
二つの直角三角柱型のプリズムを使う方法で、サイズが大きなレンズを使いやすく、明るく視界が広い双眼鏡を作れます。
また、性能を高くしても値段を安めに出来る点もメリットです。
ただし、どうしてもサイズが大き目になってしまうので、大型のがっしりした望遠鏡に使われています。
もう一つは「ルーフプリズム(又はダハプリズム)式」というタイプです。
台形をしたルーフプリズムを使い、サイズを小型・軽量化しています。
このタイプなら、ガリレオ式のようにまっすぐな筒を使った望遠鏡にすることが出来ます。
一般的に、比較的小型~中型の望遠鏡に多く使われています。
世界最大の屈折望遠鏡
現存する最大の屈折望遠鏡は、アメリカのウィスコンシン州にあるヤーキス天文台の天体望遠鏡で、レンズの口径は1.02mです。
屈折望遠鏡はサイズを小型化するのに便利ですが、逆に大型化するのは大変です。
レンズを大型化すると分厚くなり、通る光の量が少なくなって視界が暗くなりがちになるためです。
せっかく大きくしても、これでは天体望遠鏡としては使えません。
現代では本格的な天体観測用としては反射望遠鏡が主で、屈折望遠鏡は地上を観察するフィールドスコープや双眼鏡、あるいは小型で手軽なタイプの天体望遠鏡として使われています。