人力では解除不可能:マルデブルグの半球
マルデブルグの半球とは
マルデブルグの半球とは、大気圧の強さを調べるための有名な実験の名前です。
球を半分にしたような二つの容器を合わせてから中の空気を減らしてやると、接着剤も何も使っていないのに大気圧によって押されて離れなくなるというものです。
この実験を行ったのは17世紀のドイツの科学者オットー・フォン・ゲーリケで、マルデブルグの名は彼がマルデブルグ市の市長であったことに由来します。
この二つの半球型容器の間に、濡らした動物の革をパッキンにして挟み、密着させます。
ゲーリケ特製のポンプで中の空気を抜くと、接着剤や留め具を全く使っていないにもかかわらず、二つの半球はピッタリひっついてびくともしなくなりました。
最初にこの実験が行われたのは1654年で、ローマ皇帝の前で披露されました。
人間の力ではどうやっても外すことが出来ず、両側から16頭の馬で引っ張ることでようやく外れたと記録されています。
計算したところでは、半球を密着させていた大気の力は2.2トンにもなるとのことです。
これだけ聞くと大規模な実験に思えますが、実は身近な物で簡単に再現できます。
用意する物
・同じサイズのサラダボウル×2個(小さめの物が良い)
・画用紙×1枚
・消毒用アルコール
・マッチ
今回の実験ではポンプで空気を抜く代わりに、熱で気体を膨張させて密度を下げる方法を使います。
周りに燃える物が無いようにして、軍手とゴム手袋(できれば鍋掴み)を用意して、火傷に十分注意しましょう。
1. パッキンを作る
画用紙を切り、ボウル同士の密着度を高めるためのパッキンを作ります。
ボウルの外径+2cmの円盤を作り、内径より1cm程度狭い直径の円盤を切り抜いてリングの形になります。
このパッキンが上手にできていないと、実験は成功しません。
2.冷却水を用意
次に、洗い桶などに冷却用の水を張ります。
ボウルよりもやや浅く、つけたときにボウルに水が入ってこない深さにします。
3. 空気を追い出す。
まず、パッキンを水で濡らしておきます。
洗い桶にボウルの片方を置き、中に消毒用アルコールを数ml垂らします。
準備が出来たらマッチに火をつけて放り込み、アルコールに火をつけます。
4. ふたをする
火をつけてから数秒経ったら縁にパッキンを乗せ、二つのボウルを合わせて球にします。
このとき、空気が漏れないように、ボウル同士をピッタリと合わせなくてはいけません。
ボウルはかなり熱くなるので、軍手をした上からゴム手袋をしておきます。
防水性の鍋掴みがあるなら、それを使いましょう。
5. 冷却
ボウル同士をかぶせて密着させたら、すぐに上から水をかけて冷却させます。
空気が中に入ってくる音がしなければ成功です。
上手くいくと、二つのボウルはひっついて離れなくなります。
この密着は、ボウルに穴が開くか、パッキンが破れるかしない限りは、外れることはありません。
ちゃんとできているなら、人間の力でつかんで外すことはまず無理です。
どうあがいても剥すことは無理なので、放置してパッキンが乾燥するまで待ちましょう。
パッキンが乾燥すれば、ボウルの間が密着しなくなって空気が入り、自然と外れます。
原理
今回の実験の仕組みを図にすると、以下のようになります。
1.アルコールを燃やすと、空気は温度が上がって膨張します。
燃焼によって生じた二酸化炭素や水蒸気なども体積が大きくなり、元々中に入っていた空気は殆ど追い出されてしまいます。
2.蓋をすると、中には空気が入らなくなり、酸素不足になって火が消えます。
3.ここに水をかけて冷却すると、ボウルの中の気体が常温に戻り、元通りの体積まで収縮します。
4.内部の圧力は低下し、大気圧が外部>内部となることによって、全方位から押された状態になります。
外側から何十、何百kgもの力で抑えられているので、ボウルは離れなくなります。
もう少し安全な方法
今回は確実を期すために、アルコールを燃やす手段を取りましたが、もう少し安全にしたいときは、お湯を入れる方法もあります。
アルコールを燃やす代わりに沸騰したてのお湯を4分の1ぐらい入れて、蓋をして水をかければOKです。
水蒸気が水に戻ると体積は1700分の1になり、水蒸気でいっぱいになっていたボウルの中の気圧が非常に小さくなります。
お湯の場合はラーメンのカップでも出来るので、挑戦してみましょう。